続・母娘の心理学 『しんどい母から逃げる!!~いったん親のせいにしてみたら案外うまくいった~』(田房永子 小学館)に見る「外在化」

 

さて今回は、

前回の2026年5月17日付けブログ(母娘の心理学 『逃げたい娘 諦めない母』

https://kobe-counseling-salon.com/mother-daughter-psychology/ )を読後、

「もっと具体的な解決策が知りたい!」

「もう少し踏み込んだリアルな話に触れたい!」と思われた方へ、

とっておきの続編をお届けします。

 

ご紹介するのは、こちらの一冊。

『しんどい母から逃げる!!~いったん親のせいにしてみたら案外うまくいった~』

(田房永子 著/小学館)。

著者の田房さん自身の壮絶な「母娘」体験を、

パワフルに描いたコミックエッセイです。

 

当時の私にとっても鮮烈だった、

信田さよ子さんの『母が重くてたまらない 墓守娘の嘆き』(春秋社)の

黄色い表紙を彷彿とさせる、エネルギーに満ちた一冊。

(余談ですが、文庫版の『母が重くて~』は、水色の表紙になっています)。

 

前回のブログで「親とのほどよい距離感」についてお話ししましたが、

今回はもう一歩進んで、

「自分の心を守り抜くための、実践的な心の脱出劇」を覗いてみましょう。

 

◆ いくつになっても、頭の中から親が消えない

過剰適応の傾向がある方の中には、大人になってからも

「親の存在感」に圧倒されがちな方もいらっしゃるかと思います。

 

「小さい頃から、お母さんの理不尽さがつらかったけど、

高校生までは周りもそんな感じだった。

だけど18歳頃から急に誰も親の話をしなくなる。

なのに私は20代もずーーーーーーーっと、頭の中に親がいた」(p.12)

 

この「ずーーーーーーーっと頭の中に親がいる」という感覚、

身に覚えのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

◆ 「理不尽な台車」と「ドーナツのすり替え」

子どものためを思って……という旗のもと、

親が先回りする「カーリングペアレント」については、

2026年2月10日付けブログ(ミラノ・コルティナオリンピック2026

カーリングペアレント https://kobe-counseling-salon.com/curling/ )で

ちょこっとご紹介しました。

 

この、「自分で考えたり悩んだりする前に、お母さんが台車を用意していて、

あらぬ方向に走り出す感じ」(p.23)

 

必死に抵抗しても、いつの間にか「あなたがやりたいって言ったんでしょ」と、

すり替えられてしまう。

さらに納得出来ないのが、激しい衝突のあとにやってくる『分かってくれたよね?

んっじゃっ仲なおりっ。さっ、ドーナッツ食べよっ』という、

文字通りケムに巻くようなウヤムヤの終わらせ方(p.26)。

 

「どうしてお母さんはあんなことを?」という鮮明な記憶と、

釈然としないモヤモヤが、大人になった心にも、

ずっと貼りついたまま残るのです(p.51)。

 

◆ 「親のせい」にしてみる、という対処法

私たちは「親に悪気はない」とか「親は子のことをいつも思ってる」とか、

なんとか自分を納得させようと頑張ります。

しかし、付き合えば付き合うほど疲弊していく…(p.17,p.49)。

 

「なぜだろう?」。

ネットでの検索や様々な気づきを経て、田房さんは

「強い存在」だと思っていた母親が、実はとても「弱い存在」だったこと。

「独りになることができない弱い人」

「自分で “不安” を持っていることができなくて、

人に押し付け、まき散らす人だったのだ」と気付きます(p.66, p.71)。

 

世間では、「親のせいにするな」と言われがちです(p.10)。

けれど、「私が悪い」とか「ケンカ両成敗」とか無理やり解決してきた過去を、

「私が悪いわけじゃなかった。何も悪くなかった」と、

「ちゃんと親のせい」にして自分からはがす作業をしてみた(p.76)。

 

そして、「自分がイヤだったら、イヤでいい」(p.88)。

そう思えたとき、田房さんは29歳にして初めて、「やっとちゃんと『生まれた』。

「自分で自分を生んであげることができるんだ」と思えたことを、

語っています(p.85)。

 

◆ 心理学でいう「外在化(がいざいか)」のお話

本書で説かれている、

「いったん誰かのせいにすることで、自分が回復する」というプロセス(p.18)。

これは、私たち家族療法を用いるカウンセラーが、実際のセッションでもよく使う

「外在化(がいざいか)」というアプローチに通じます。

 

【外在化とは?】

従来の心理療法の多くは、何か問題が生じた時に,性格など人の内面に原因を見い出します(内在化)。他方、家族療法では例えば、同級生に手をあげる子を単に「乱暴で問題な子」とは捉えず、友だちと仲良くしたい気持ちがあるけれど、それが「イライラ君」に邪魔され、上手く表現出来ずに乱暴をしてしまう「問題を抱えた子」であるという「外在化する会話」により,「問題」を人の外に出します。そうすることで、「問題」なのはあくまで「問題」で、その人が悪いのではない=その人を責めない、建設的な解決が見出されて行きます(参考 『公認心理師をめざす人の 社会・集団・家族心理学』13章4節「家族療法」をみずさわが分担執筆しています https://kobe-counseling-salon.com/social-group-and-family-psychology-for-those-aiming-to-become-licensed-psychologists/ )。

 

◆ カウンセリングという「自分へのケア」

田房さんは、親との関係に悩む仲間が集まる場や、カウンセリング、

箱庭セラピーなどを通じて、少しずつ心を癒して行かれました。

その中で、カウンセリングについて記述されている箇所を抜粋してみましょう。

 

「これを受けたから、明日から急に心が晴れて人生がまったく変わる、

というものではない」

「だけど、確実にそのお金の分、そこまで行った時間、帰り道での思考を含めて、

何らかの変化があったり、それを確認したりすることがあると思う」(p.114)

 

カウンセリングは魔法ではありませんが、

「自分を知るために、自分にお金と時間を使ってケアをしてあげる」(p.122)という

その行動自体が、自分を大切にするための、

自分ファーストの確実な一歩となるでしょう。

 

◆最後に

本書には、文字以上に伝わる、マンガのパワーが詰まっています。

巻末には、「つらくなったら使ってみてね」という「おまもりシート」付き。

 

「親と向き合う」ルートでも。「いったん全力で逃げる」ルートでも。

当サロンでは、すでに多くの先輩たちが自分のルートを見つけ、

伸びやかに歩まれています。

 

これまでの「お母さんが…」だった主語から、

「私はこうしたい」「私はこういう人だからこうする」…と主語を「私に」(p.118,p.119)。

皆さんの「私はこうしたい」を一緒に育む時間を、ここでお待ちしています。

どうぞ安心してお越し下さいね。

 

◆番外編

本書で紹介されている、

しんどい母から逃げる!!術 <物理的な逃げ方編>

 

①家を出る

②連絡を断つ 電話に出ない。メールはスルー。一番注意すべきは、自分の罪悪感や迷い。

③住所を教えない

④公的機関を頼る 「帰って下さい」をドア越しに3回言っても帰らない場合は、実の親でも110番して良いそう。

「こういう情報は実行しなくても、知っているだけで心の軽さが違う」と、田房さんは記しています(p.116,p.117)。

 

しんどい母から逃げる!!術 <心理的な逃げ方編>

①捨てる もらったけれど全然いらないもの、使ってないものを捨てる。

②あきらめる 「この人はどうして話が通じないんだろ?!」という所から脱する。

③自分に集中する 話の主語の「お母さん」登場率が高かったのを、「私はこうしたい」「私はこういう人だからこうする」と主語を私に。そして、「自分のイヤなことはやらない」「好きなことに囲まれる」「自分に興味を持つ」「自分をホメる」「自分を中心に考える」(p.118,p.119)。

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